どさんこ田舎者、東京でいろいろつくる

北海道遠軽町出身、さのかずや26歳。大学院を経て、再び東京で会社員。無茶と繊細さと賢さとバランス感覚。

駄文シリーズ 「もしも君が泣くならば」

うっすらと煙る明かりを見つめ、僕はゆっくり煙を吐いた。


テレビには、どこかで見たことのあるようなお笑い芸人が、何かの企画をしていた。
地元でやっていたような深夜番組ではなかった。
部屋にいる時はもうずっとテレビをつけっぱなしの生活を送っている。
何を見るわけでもないのに。
どうしてなんだろう。

生活を維持していく、ただそれだけのことがとても難しい。
黙っていても部屋は散らかるし、ゴミは貯まるし、タバコはなくなっていく。
そして気づかないうちに、もっと大事なものもなくなっていっている気がするけれど、
何がなくなっているのかも気づくことができないまま、
その何かは確実に、僕の中からこぼれ落ちていった。

短くなったタバコを灰皿で揉み消し、リモコンでテレビを消した。
机に置かれたパソコンの冷却ファンの音だけが響く。
僕は青い音符をダブルクリックし、スピーカーの電源をつけた。
全曲シャッフルでかかった曲は、銀杏BOYZの「もしも君が泣くならば」だった。
僕はタバコに火をつけ、ベッドに座り込んだ。


このベッドで、何人かの女と寝た。
この曲を聴いていた中学時代の僕が思っていたものより、それはずっと苦しいものだった。
僕がそれを求めていたのに、いつだって苦しかった。
それはいつも、一瞬僕の中を通り抜け、僕の中に小さな何かを残して消えていった。
タバコみたいだな、と僕は煙を吐きながら思った。

気がつけば21歳になろうとしていた。
気がつけば僕はあれほどしたかった多くのことをいとも簡単にしているし、
気がつけば僕はいろんなことを気にしなくなっていた。
気がつけばタールは9mgになっていたし、
気がつけば部屋の隅の、レスポールのギターのネックは反りきっていた。

自分の好きなように生きる、ということの難しさが、形には現れずともなんとなく解ってきたし、
この生活がいつまでも続かない、ということも何となく解っていた。
タバコを一口吸った。頭の奥に静かに響いて、鼻と口から抜けていった。

きっと表面上は、大して変わりのないものだったんだろうと思う。
恐らくは、GOING STEADYの「もしも君が泣くならば」と、
銀杏BOYZのそれぐらいの違いでしかなかった。
でもそれは同じように見えて、本質的には全く別のものだった。
中学生の僕が、あの頃の父や母を見るのと同じ目で、20歳の僕をきつく睨んでいた。

部屋の隅で埃を被ったエレキギターを抱え、ベッドに座った。
弦はひどく錆び付いていたし、チューニングも狂っていた。
中2の時初めて覚えたバンプのあの曲を歌おうとしたけれど、コードが全く思い出せなかった。
僕は弦を緩め、ギターを元の場所に戻した。
パソコンの横で、青白い煙が静かに立ち上っていた。

I WANNA BE BEAUTIFUL
I WANNA BE BEAUTIFUL
あれから僕は、一度でも、
そんな貪欲な感情に振れたことがあっただろうか。
あの頃はいつも、自転車を漕ぎながら、そんなことを思っていたのに。

もしも君が泣くならば、僕も泣く。なんて、
そんなこと思えるような人が、今の僕の回りにいるだろうか。
薄っぺらい飲み会に行っても、薄っぺらいセックスを重ねても、
いつも僕はそれ以上の関係に踏み込めなかった。

中学生の僕が、涙を流しながら僕を睨んでいた。
僕は何も言えなかった。何年ぶりかの涙を流した。

失くしたものは、きっと見つからないと思うけど、
もっと大事なものを見つけられるように頑張るから。
お前も頑張れ。じゃあ、また。
僕は涙を拭いて、部屋の隅に佇む中学生の僕に、軽く手を振った。
曲が終わるところで、僕はスピーカーの電源を切った。

2口吸って放置したタバコは、もう短くなっていた。
火を消し、箱から新しいタバコを出し、火をつけた。
タバコの箱には、英語で「希望」と書いてあった。
煙を吐いて、えらく皮肉的だな、と僕は笑った。
埃の落ちたギターが、光を反射して少しだけ光っていた。

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1年くらいまえの就活の鬱のときに書いたフィクションです。
タバコ吸ったことないしセックスもそんなにしません。

ちょいちょい駄文書いていこうかな。