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どさんこ田舎者、東京でいろいろつくる

北海道遠軽町出身、さのかずや26歳。大学院を経て、再び東京で会社員。無茶と繊細さと賢さとバランス感覚。

【妄想シリーズ】夢のはなし

夢を見た。



http://instagram.com/p/SSHO5VKrRt/



夢の中でぼくは、1本の道を歩いていた。真っ白い世界の中にうっすらと伸びるその白い道はどこまでも長く伸びていて、その道の先に何があるのか見ることはできない。道の幅はあまり広くなくて、手を伸ばせば端まで届きそうなくらいなのだけれども、道の端に白い壁があるのか、白い世界があるのかもよくわからない。距離感が全くわからないまま、ぼくは上下白い服を着て、黙々と道を歩いている。

しばらく歩くと、道の脇に1本の電柱が見えた。その周りには小さな草むらと砂利があって、幼稚園児くらいだろうか、そこで小さな男の子と女の子がしゃがみこんで何やら熱心に手を動かしている。そのまま歩いて近づいていっても、彼らはこちらを見向きもせず、嬉しそうに何かを話しながら石を渡しあったりしている。どうやらおままごとにふけっているらしい。

その姿に、ぼくはどうも見覚えがあった。

真後ろに立っていても、彼らはこちらを見向きもしない。「なにしてるの?」と話しかけてみるが、2人のおままごとに熱中している。この2人にはぼくのことが見えていないんだろうか。それならそれでいいやと、ぼくはあまり深く考えずに2人を見守った。2人はとても楽しそうに遊んでいる。2人の会話によると、女の子はななちゃん、男の子はかずくんというらしい。結婚しようねーみたいなことをしきりに話している。

ぼくの歩いていた道の先から、1人の若い女性が歩いてきていたことに、ぼくはその2人のおままごとに夢中になっていて気がつかなかった。

ぼくの何歩か手前に来て初めて、ぼくは彼女に気がついた。彼女は非常に明るい茶髪に、だぶだぶのゆるいパーカー、ゆるいスウェットにクロックスを履いていた。どっからどう見ても、田舎のヤンママの出で立ちだった。ぼくのすぐ前の子どもたちは、やはり彼女に気がつかないようだ。

「一緒に見てもいい?」

と、彼女はぼくに訊いてきた。特に断る理由もなかったので、いいよ、と答えた。彼女はぼくの横に立ち、ぼくと一緒に男の子と女の子のおままごとを見つめた。いつまでも楽しそうに、飽きずに、葉っぱのまな板と石の包丁で料理をしている。

「いまなにしてるの?」

と、おままごとを見つめながら、まるでぼくのことを知っているかのように彼女は言った。なにって?と訊くと、しごと、と答える。東京でサラリーマンやってるよ、とぼくは答えた。きみは?と訊くと、室蘭で看護師やってるよ、もうやめたいけど、と彼女は答えた。やめたいのはおなじだね、とぼくが笑うと、彼女もさびしそうに笑った。どう見てもヤンママだけど、その笑顔は素直なものだった。ぼくは、彼女のことが思い出せない。そもそも、知っている人なのかどうかさえ。

おままごとを見つめながら、ぼくらはいろいろな話をした。仕事がつまらないこと、トレーナーが最高にムカつくこと、婦長が最高にムカつくこと、東京のど真ん中で毎晩深夜遅くまで働いて家に帰ったら寝るだけなこと、昼勤と夜勤で生活バランスがめちゃくちゃだけどなんとか子どもを育てていること、土日はちゃんと休みなのに遊ぶ彼女もいないこと、自衛隊勤務の元旦那とDVで別れてからあらゆる男の誘いを断って1人で強く生きていること、独特のセンスの友達と美術館に行って作品の意図を推測して話すのが楽しいこと、隣町のイオンの子供服売り場が楽しいこと、渋谷のカフェめぐりが楽しいこと。

おままごとは長いこと料理を続けていたが、お風呂ごっこに変わったらしい。ぼくはお風呂ごっこで背中を流しっこしてるのを見つめながら、まだ自分が話している相手が誰なのか全くわからないまま、全く文化圏の違うこのヤンママとの会話を続けている。なんとなく、生まれ育った環境が違うだけで、生活というのはいかようにも変わってしまうんだろうな、ということを思った。

ふと、遠くから「かずー」と、男の子を呼ぶ声がした。どうやらお母さんらしいのだが、声の方を見てもなんの姿も見えない。同じように女の子を呼ぶ「ななー」という声も、何も見えない方角から聞こえてきた。目の前でお風呂ごっこに熱中していた彼らは、すくっと立ち上がって、呼ぶ声がした真っ白い空間に走っていき、一瞬立ち止まってぼくらの方を振り返った。ぼくらのことが見えていたのかは分からないが、彼らは2人で大きく手を振り、後ろの白い空間へ消えていった。

「じゃ、私も行くね」

同じ方向に向かって、クロックスをパタパタさせながら彼女は歩いていった。子どもたちと同じ場所で彼女は振り返って手を振り、同じように消えていった。

その瞬間、幼稚園のときに近所だったので仲良くしていて、小学生に上がるときに親の都合でどこかへ引っ越していった、さとうななちゃん、という女の子を思い出した。彼女のことは、札幌の近くに住んでいる、という噂を何年も前に聞いて以来、全くなにも知らない。さっきのヤンママが手を振るシルエットとその笑顔が、その前に消えていった女の子と全く同じだったのが、ぼくの目に強く焼き付いていた。

目が醒めて、なんとなくfacebookを開いて、なんとなく"sato nana"という人を検索してみたけれども、検索結果が多すぎてなんの手がかりにもならなかった。彼女の笑顔だけがぼくの目に焼き付いていたけれども、3日もすれば消えるだろう、と思った。



そんな夢を見ました。




本当はそんな夢なんて見てなくて、いまなんとなく書きました。



ASIAN KUNG-FU GENERATION / 夏の日、残像